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単純だが無視できない、円安をもたらした要因

2021-06-02

■ 2021年の為替市場では、ここまで円安地合いの強さが印象に残る

■ 金融政策の方向性の違いは、中期的な観点で円安を支える要因として意識すべきと考える


   2021年も5カ月を過ぎたが、今年の為替市場は円安地合いの強さが印象に残る。円に対する主要通貨の年初来騰落率(プラスだと円安)をみると、カナダドルの+12.0%を筆頭に、英ポンドは+10.4%、豪ドルは+6.6%、ユーロは+6.2%、米ドルは+6.1%、スイスフランは+4.3%となっている。本稿では金融政策面に焦点を絞り、円安をもたらしたポイントを整理したい。
   日本銀行は4月27日公表の「経済/物価情勢の展望」で、少なくとも2023年度まで物価目標(前年比2%上昇)を達成できない見通しを示した。また、3月に長期金利の変動許容幅をプラスマイナス0.25%と明確にし、「連続指値オペ制度」の導入で金利上昇を抑制する方針を鮮明にした。これら2点が市場参加者に注目され、日本銀行は主要中銀の中で最も金融緩和縮小へのハードルが高いとの見方につながり、円安をもたらしたと認識している。
    加えて、4月以降に利上げ開始時期の目安を示す主要国中央銀行が増えたことも、相対的な解釈が反映される為替市場で、円安進行につながった要因と捉えている。具体的には、4月21日にカナダ中銀*1が、5月26日にニュージーランド(NZ)中銀*2が、早ければ2022年下期に利上げを実施するとの見通しを示した。また、英中銀のブリハ委員は5月27日に、英労働市場の回復が順調に進んだ場合、2022年の早い時期に利上げ実施が可能との見通しを表明。同委員が8月に退任予定であることもふまえ、英中銀内で多数派の見解でないとみられるが、英国内の経済正常化進展も相まって、英中銀の動向を巡る市場の思惑に一石を投じた。一方、市場が最も注目する米連邦準備理事会(FRB)と欧州中銀(ECB)は、現時点で金融緩和縮小に慎重なスタンスが優勢とみられる。しかしながら、米国と欧州では7月を目標とした集団免疫達成に向けて、新型コロナワクチン接種が順調に進んでいる。そのため、1年後を展望した場合、両中銀とも金融緩和縮小へ明確に舵を切っている可能性は高いだろう。
   貿易収支などを背景とした実需動向は円買い優勢の状況が継続するなど、一本調子の円安進行が見込み難いことは確かである。ただ、金融政策の方向性の違いは無視できず、来年前半にかけて緩やかな円安地合いの継続を見込む要因の一つとして、注視したい。
*1 PRESTIA Insight 2021.05.12:カナダドル:ポイントは「金融政策」「原油」「米国」
*2 PRESTIA Insight 2021.05.27:RBNZは2022年に利上げ開始へ
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