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テーパリング観測とコミュニケーション

2021-05-31

■ 市場でテーパリング観測が広がるなか、中銀は政策正常化に向けたコミュニケーションに苦慮
■ テーパリングの有無に関わらず、観測により市場金利が上昇すれば金融引き締め効果が生じる

   金融市場で資産購入の段階的縮小(テーパリング)観測が広がるなか、中央銀行は金融政策の正常化に向けたコミュニケーションに苦慮している。理由は、その第一歩であるテーパリングの方が、政策金利引き上げよりも長期金利に対する感応度が高いためだと考えられる。
   市場から直接資産を買い入れる量的金融緩和政策は、ターム物金利の引き下げ、イールドカーブのフラットニング(平坦化)を促すとともに、コロナ禍での企業の資金調達環境の支援に大きく寄与した。ただ、出口の段階ではその反作用が見込まれ、タームプレミアムが拡大し、イールドカーブのスティープニング(傾斜化)が進行しやすくなる。長期、超長期金利の変動が中心となるため、中央銀行の影響力は短中期金利よりも弱まり、資産価格の変動にも直結しやすい。中央銀行は、政策変更を急速に織り込む形での市場金利の急上昇を懸念し、金融政策の正常化に関するコミュニケーションには慎重である。米連邦準備理事会(FRB)、欧州中銀(ECB)ともに、現在も声明文に「緩和的な金融政策姿勢」を保つことを明記している。
   ただ、経済の正常化に伴う市場金利の緩やかな上昇については、両中銀ともに許容する可能性が高い。例えば、FRB、ECBは、それぞれ5月に公表した「金融安定性報告(FSR)」のなかで、資産価格高騰に警鐘を鳴らし、低金利の長期化もその一因だと指摘した。低金利政策継続のリスクも十分認識していることを示唆している。また、イエレン米財務長官(前FRB議長)は3日のインタビューにて、「米経済が過熱しないよう確実を期するには、金利はやや上昇せざるを得ないかもしれない」と発言している。財務長官に金融政策に関する権限はないため、あくまで市場金利に対するイエレン氏の個人的見解と位置付けられるが、政策経験者の本音とも受け止められる。
金融市場の「無秩序な」変動への対応余地を残すため、6月以降、テーパリング協議が拙速に進められる可能性は、現時点ではさほど高くない。ただ、金融市場でテーパリングが織り込まれる動きは、また別の問題であり、政策正常化を進める過程で、中央銀行が意向通り市場金利の上昇を抑制することは容易ではない。経済、金融市場への影響としては、テーパリングの有無よりも、市場金利の上昇、それに伴う金融環境の引き締まりの方が重要であろう。
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