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新興国中銀:FRBの金融政策スタンス次第か

2021-05-27

■ 現時点では、まだ新興国全般へ政策金利引き上げの流れが広がった訳ではない

■ 利上げ実施が一部新興国にとどまるのは、FRBの金融緩和姿勢を受けた米ドル安進展が大きい


    本稿では、5月の新興国中央銀行の動向を確認する。3月に一部の主要新興国中銀(ブラジル、トルコ、ロシア)が利上げを実施したが、現時点では利上げの波が新興国全般へ広がっている訳ではない。5月は本稿執筆時点で9カ国(タイ、ブラジル、マレーシア、トルコ、フィリピン、メキシコ、チリ、南アフリカ、インドネシア)の新興国中銀が政策会合を実施したが、このうち利上げを実施したのはブラジル(政策金利:2.75%から3.50%、2会合連続)にとどまり、それ以外の8カ国は政策金利を据え置いた。また、5月27日には韓国中銀が政策会合を実施する予定だが、市場予想では政策金利が据え置かれる見込み。地域別で新興国の金融政策スタンスを大まかに整理すると、アジアは「警戒姿勢を採りながらも、利上げせず現状維持を継続」、南米や欧州は「物価上昇抑制のため、一部で利上げを開始」という傾向と言える。
   物価上昇圧力が強まるなかでも利上げ実施が一部にとどまる要因として、通貨安の進行度合いを指摘したい。大幅な通貨安となれば、中央銀行は通貨防衛のために利上げ実施を迫られるほか、資源輸入国では輸入価格上昇を通じた物価高により、利上げ懸念は一層強まる。注目したいのは、(1)米連邦準備理事会(FRB)の動向と(2)産出資源の有無である。(1)では、FRB首脳部は早期の金融緩和縮小に消極的であり、米ドル安進展が新興国通貨安の進行を抑えている。主要新興国中銀が利上げを踏みとどまるのは、FRBの金融緩和姿勢が寄与していると言えるのではないか。一次産品価格上昇を受けた物価上昇圧力には留意が必要だが、通貨防衛を目的とした利上げ圧力は乏しいと考える。つまり、FRBが早期の金融緩和縮小へ舵を切った場合、先進国以上に新興国の金融市場が不安定になる可能性は高い。
   また、新興国通貨の選別では(2)が見通しの参考となる。例えば、資源産出国の南アフリカやメキシコは直近の資源価格上昇がプラスとなっている一方で、資源輸入国のトルコなどはマイナスに作用する。実際、対米ドルで南アフリカランドは2019年7月以来の高値圏で推移するほか、メキシコペソは新型コロナ禍前である2017年から2020年2月までのレンジまで戻すなど、堅調な値動きをみせている。一方で、トルコでは3月に中銀総裁が、3月と5月に同副総裁が一人ずつ解任されるなど、中央銀行自体のガバナンスの問題から必要な利上げができず、投資家の信頼感が失われている。市場では利下げに転じるとの警戒が根強く、トルコリラは、対米ドルで過去最安値圏で推移している。
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