半導体不足問題の根深さ
2021-05-21
■ 世界的に半導体需給が逼迫し、一部の経済指標では、供給制約の影響が表れ始めている
■ ただ、構造的な需給逼迫、気候変動リスク、米中対立など、根本原因は極めて複雑である
世界的に半導体需給が逼迫し、一部製品の生産に影響を及ぼしつつある。自動車産業ではすでに影響が顕著で、車載半導体の不足により、国内外で減産や工場の操業停止が相次いでいる。主な原因として、(1)元々強かったスマホ需要に加えて、コロナ禍以降のパソコン、ゲーム機などの在宅需要の増加、(2)2月の米国南部の大寒波、3月の日本の車載半導体大手の工場火災など、半導体工場の操業停止や減産による供給減少、(3)先端半導体の一大供給源である台湾への中国の軍事圧力、およびそれに伴う世界の半導体供給網を巡る不透明感の高まりなど、需給要因に加えて地政学要因も絡み、問題は複雑化している。
4月の米ISM製造業景況感指数(60.7、前月比4.0ポイント低下)など、一部の経済指標では、供給制約の影響が表れ始めている。世界的な半導体不足が供給制約のみにとどまるならば、制約解消に伴って問題は終息し、マクロ経済への影響も一時的に限られるだろう。ただ、デジタル化の進展に伴って従来用いられていなかったような家電製品などでも半導体利用が増え、半導体需給はコロナ禍以前から逼迫しつつあった。上記(2)の供給制約はあくまできっかけに過ぎず、根本原因は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)により世界的に設備投資が手控えられたことに起因する構造問題だと捉えられる。今後も需要の高止まりが見込まれる一方で、新工場の稼働など、供給能力の増強には数年単位の時間がかかり、需給ミスマッチの早期解消は見通し難い。半導体需給の慢性的な逼迫は、今後、影響が幅広い分野に波及し、想定以上に長期に渡って景気を抑制する可能性も否定できない。加えて、毎年のように大規模な自然災害が発生している点も、供給不安の常態化、および備蓄需要の増進を促す要因と考えられ、近年関心が高まる気候変動リスクも無関係ではなくなっている。
また、米中通商摩擦を契機に半導体の国産化に舵を切る中国に加え、米国でも半導体の国産化に向けて政策支援が進んでいる。米上院議会は18日、半導体の国内生産および研究開発の強化に向けて今後5年間で520億ドルを支援する超党派法案を発表した。デジタル覇権競争が激化するなかで、世界の供給網が一変し得る動きが進んでおり、供給制約に起因する一過性の現象と整理できるほど単純な問題ではないと考えられる。