忍び寄るコモフレーションの気配
2021-05-17
■ 足元で広がる物価上昇に対する警戒は、構造的要因への懸念か
■ 特に金属、穀物価格の上昇が顕著で、一時的な物価高騰とするFRBの認識が問われている
物価上昇に対する警戒が改めて広がっている。きっかけは、4月の米消費者物価指数が前年比で2008年9月以来の高い伸び(前年比4.2%上昇)を記録したことだが、前月比でも上昇ペースが加速(前月比0.8%上昇)しており、ベース効果(前年の低い物価水準が基準だったことに起因する物価の急上昇)にとどまらないことが明らかになっている。主に経済活動正常化による需要回復を反映したものであり、この動き自体を過度に警戒する必要がある訳ではない。また、半導体不足による新車生産の減少による中古車価格の高騰(前月比10.0%上昇、1953年以来最大の伸び)が最も大きく寄与しており、米連邦準備理事会(FRB)が主張するような「一時的」な現象に押し上げられている面もある。ただ同時に、エネルギーサービス(同1.5%上昇)、食品、エネルギーを除くコモディティ(同2.0%上昇)などでも上昇圧力が強まっており、資源価格上昇の影響とみられる現象も散見されている。
4月19日の本稿で指摘したように、目下のインフレ懸念は、ベース効果に対してではなく、(1)貨幣供給量の急増(貨幣要因)、(2)経済需給の逼迫(=デフレギャップの解消、需要要因)、(3)国際商品価格の上昇(供給要因)などの構造的要因に対するものと考えるべきである。その兆候が実際に見え始めたため、インフレへの警戒が促されたとみられる。足元で顕著なのは(3)であり、4月後半以降、銅、鉄鉱石などの金属価格や、トウモロコシ、小麦、大豆などの穀物価格が一段と騰勢を強めている。3月後半から4月後半まで安定していた米10年物価連動国債のブレークイーブン?インフレ率も連動して上昇基調を強めつつある。4月22、23日に気候変動サミットが開催され、温室効果ガス削減の世界的潮流が、今後のバイオマス燃料の需要を高め、穀物需給を構造的に逼迫することを織り込んでいる可能性もあろう。
サプライチェーンの川上(素材)である金属、穀物価格の上昇は、川中(中間財)、川下(最終財)へ波及し、長期にわたり物価上昇への寄与が見込まれる。FRBが、物価上昇は一時的であるとの認識を大幅に修正することは見込み難いものの、この見解に対する信用が揺らぐ場合、市場変動性を高め、不安定な値動きにつながり得る点には注意が必要だろう。