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インフレ警戒の着眼点

2021-04-19

■ 3月以降の物価上昇ペースの加速は主にベース効果に起因

■ 一時的な物価上昇よりも、構造的インフレ要因である政策対応の帰結を警戒すべき

   主要国では、3月以降、前年比ベースの物価上昇率は急拡大することが見込まれている。これは主に、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行を受けて、前年の3月より都市封鎖が全世界に広がり、2020年3月から6月ごろにかけて物価下落圧力が急激に強まったことに起因する。前年の低い物価水準が基準となるため(ベース効果)、本年3月以降の物価上昇率は、数値上、急上昇する可能性が高い。同時期に原油などの国際商品価格が急落し、その後、異例の財政・金融緩和措置などにより急回復していることも物価変動の増幅要因となる。

   15日時点で公表されている主要国の3月の物価指標をみると、米消費者物価指数(前年比2.6%上昇)、米生産者物価指数(同4.2%上昇)、米輸入物価指数(同6.9%上昇)、ユーロ圏消費者物価指数速報値(同1.3%上昇)は軒並み上昇ペースが急加速している。前年同期に物価下落圧力が一段と強まった4、5月にはさらに上昇幅を広げる可能性が高い。ベース効果は、今夏以降、徐々に弱まり、1年後の来年の3月には完全に剥落する。すなわち、物価の急伸がベース効果のみに基づくのであれば、各国中央銀行の認識どおり、物価高騰は一時的な現象となる。実際、米国では、インフレ基調を捕捉する指標に対して、現時点で基調変化を示す兆候は見られていない*1。

   しかし、ベース効果以外にも、(1)各国政府の現金給付、中央銀行の量的金融緩和などによる貨幣供給量の急増(貨幣要因)、(2)大型経済対策による経済需給逼迫(=デフレギャップの解消、需要要因)、(3)国際商品価格の持続的上昇(供給要因)、など、インフレ要因は複数存在する。米国を例に挙げると、特に(1)(2)は、「高圧経済」政策として、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長、イエレン米財務長官の下で政策的に今後一段と促される可能性が高い。2月に米紙への寄稿で警告したサマーズ米財務長官*2をはじめ、専門家の間でも1.9兆ドルの経済対策による景気過熱とインフレ加速に対する懸念が多く示されている。足元の一時的な物価上昇よりも、構造変化をもたらし得る政策対応の帰結を警戒すべきであろう。

*1 詳細はPRESTIA Insight Market Alert 「インフレ基調は転換するのか」
*2 Summers, Lawrence H. “The Biden stimulus is admirably ambitious. But it brings some big risks, too.” The Washington Post, February 4. 2021


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