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大手金融機関の巨額損失と米投資会社の話題について

2021-04-06

■ ファミリーオフィス形式の米投資会社1社が破綻し、複数の大手金融機関は巨額損失を被った

■ 当該米投資会社関連の追加損失は軽微と考えるが、同様の事例が隠れている可能性がある


   本稿では、特定の米投資会社との取引を通じて複数の大手金融機関が巨額損失を被った話題について取り上げる。なお、以下では本稿執筆時点で報道されている情報を前提としており、今後新たな事実が伝わる可能性もある。当該案件は、3月下旬に複数の大手金融機関が大量の株式を一斉に売却したことで、多くの市場参加者が知るところになった。少なくとも、日系の大手証券会社と欧州系の大手投資銀行の2社だけで、損失額は約70億ドル(約7700億円)に達するとの推計だ。今回の問題は、金融機関のリスク管理問題にとどまるか、金融システム全体の不安定化にまで波及するか、市場の注目を集める。ポイントは2点と筆者は捉えている。すなわち、(1)大手金融機関の損失の大半はプライムブローカレッジ業務を通じてとみられること、(2)当該米投資会社はファミリーオフィス形式を採用していたこと、である。
   まず(1)について。プライムブローカレッジ業務とは、大手金融機関がヘッジファンドなどの機関投資家に提供するサービスの一種であり、収益獲得は運用の結果でなくサービス提供の対価としての手数料収入である。この点から、当該案件自体から損失が一段と膨らむことは想定しづらいと考える。なぜなら、大手金融機関はサービス提供での収益(手数料)獲得が目的だったことから、3月下旬に大手金融機関が大量に売却された当該米投資会社関連のポジションは、ヘッジ目的が大半と推測されるためだ。一度ポジション清算が完了すれば、追加損失が生じる恐れは小さいのではないか。後は当該投資会社が大手金融機関と結んだデリバティブ契約の内容とレバレッジの大きさが問題だが、これらは追加報道を待ちたい。
  (2)は、米証券取引委員会(SEC)による規制の有無という点で大きな影響を与えた。2008年の金融危機以降にヘッジファンドに対する規制は一段と厳しくなった一方、ファンドが抱える投資家がごく少数であることを理由に、ファミリーオフィス形式での運用では情報開示の多くが免除されていた。今回問題となった米投資会社はこのファミリーオフィス形式での運用に特化していたことから、金融当局の把握が遅れたと指摘されている。既にSECの調査は開始されているが、今後はファンド運用に対する規制が一段と厳しくなろう。今回の損失発覚が当該米投資会社関連のみに限定された場合、金融市場が混乱する公算は小さいと考える。ただし、今回の問題が特殊事例ではなく、情報開示の免除で隠れていた同じような事例が今後発覚した場合は、短期的に金融市場が混乱する恐れがあるため、引き続き注意が必要だろう。
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