一部の新興国中銀は、3月に利上げサイクルを開始へ
2021-03-30
■ 一部の新興国中銀は利上げサイクルに入ったが、金融緩和姿勢を維持する中銀もまだ多い
3月に政策金利を据え置いた新興国中銀で、メキシコを除く5カ国では物価上昇懸念がまだ弱いこともあり、金融緩和の継続が示唆された。FRBの金融緩和姿勢継続も相まって、当面の間、新興国資産の不安定化はトルコ資産など局所的にとどまるとみる。しかしながら、世界的に経済正常化への期待が広がるなかで、物価上昇圧力が徐々に強まることは避けられないだろう。年末までを見据えた場合、新興国資産に対する「選別と警戒」は怠れないと考える。
■ 金融引き締めの背景は物価上昇圧力であり、経済正常化期待とともに今後強まる可能性が高い
本稿では、3月の新興国中央銀行の動向を確認する。一部の新興国中銀が政策金利を引き上げるなど、昨年からの金融緩和サイクル終了を示唆する中銀が増えた。先進国では、米連邦準備理事会(FRB)や欧州中銀(ECB)、豪中銀(RBA)などが金融緩和姿勢の継続を明確にしていることとは対照的に、新興国では一足早く金融引き締めの流れが訪れ始めたと言えよう。3月は本稿執筆時点で9カ国(マレーシア、ブラジル、インドネシア、ロシア、台湾、トルコ、タイ、南アフリカ、メキシコ)の新興国中銀が政策会合を実施した。このうち、利上げを実施したのはブラジル(政策金利:2.00%→2.75%)、ロシア(4.00%→4.50%)、トルコ(17.00%→19.00%)の3カ国で、それ以外の6カ国は政策金利を据え置いた。ただし、ブラジル中銀とロシア中銀が利上げサイクルに転じた以外にも、メキシコ中銀は今回の政策決定が全会一致だったことで、従来の金融緩和サイクルを終了したと市場で解釈されている。一方で、トルコは3月20日にアーバル前中銀総裁が突如解任されたこともあって、市場の一部では利下げ観測も浮上。トルコリラの値動きが不安定となるなか、4月15日の次回政策会合に注目が集まる。
こうした新興国中銀の行動の背景には、物価上昇懸念が存在する。ブラジル中銀が定める今年の物価目標中央値は3.75%だが、2月の消費者物価指数(IPCA)は前年比5.2%上昇と、物価目標の上限値(5.25%)付近にある。また、ロシアは2月の消費者物価指数(CPI)が同5.7%上昇と、こちらもロシア中銀の物価目標値(4.00%)から大きく上振れている。昨年11月と12月に先んじて利上げを実施していたトルコでも、2月のCPIは同15.61%上昇と、物価上昇懸念は未だに払拭できていない。FRB、ECB、RBAは今後物価が上昇しても「一時的」との姿勢を崩していないが、これら一部の新興国では、新型コロナウイルス禍からの景気回復局面で想定される物価上昇に対して、先手を打っていることがわかる。3月に政策金利を据え置いた新興国中銀で、メキシコを除く5カ国では物価上昇懸念がまだ弱いこともあり、金融緩和の継続が示唆された。FRBの金融緩和姿勢継続も相まって、当面の間、新興国資産の不安定化はトルコ資産など局所的にとどまるとみる。しかしながら、世界的に経済正常化への期待が広がるなかで、物価上昇圧力が徐々に強まることは避けられないだろう。年末までを見据えた場合、新興国資産に対する「選別と警戒」は怠れないと考える。