金利上昇下での株高基調継続の条件とは?
2021-03-15
■ ただし、現行ペースの金利上昇とEPS増益では、米国株が持続的に上昇するのは難しい
筆者は先日、米国株(S&P500指数)について「イールドスプレッドのさらなる縮小が見込みづらくなったため、米長期金利上昇により、株式益利回りの上昇圧力、すなわち株価収益率(PER)の低下圧力が生じやすくなっている」ことを指摘したが、同時に「企業の業績回復が続いているため、これが株価下落に直結するとは限らない」とも記した*1。そのメカニズムを補足し、株価が上昇基調を保つための条件を考察したい。
前者は「株式イールドスプレッド=株式益利回り(PERの逆数)-米10年国債利回り」という恒等式に基づく。株式イールドスプレッドが縮小しづらいこと(左辺)を所与とすると、米10年国債利回り上昇に応じて株式益利回りは上昇せざるを得ないこと(右辺)を述べたに過ぎない。
後者は「PER=株価/1株当たり利益(EPS)」という恒等式に基づく。整理すると「株価=EPS×PER」となる。株式益利回りが上昇(=PERが低下)しても、EPSの増加がそれを上回れば、計算上、これらの積である株価は必ずしも下落する訳ではないことを述べている。
すなわち、株価動向は、米10年国債利回りの上昇幅とEPS増益率のバランスにより左右されることが分かる。3月12日時点で、米10年国債利回りは年初来約0.71%(71bp)上昇し、S&P500指数の向こう12カ月予想EPSは約8.1%増加している。1営業日あたり換算で、米10年国債利回りは0.0140%(1.40bp)上昇、EPSは0.15%増益に相当する。12日の株価、EPS水準を前提に株式イールドスプレッドが変わらないと仮定すると、株価維持の条件は、1.40bp/日ペースの米10年国債利回り上昇に対して約0.31%/日のEPS増加、逆に0.15%/日ペースのEPS増益に対して0.69bp/日ペースの米10年国債利回り上昇と計算される*2。株式イールドスプレッドが一段と縮小することがない限り、現在の金利上昇、EPS増益率のバランスでは基調的な株高の持続可能性は低いだろう。上記水準を基準として、金利上昇ペースが緩む、もしくはEPSの増益ペースが加速しなければ、株価は金利変動に対して不安定な状況が続くことになる。金利上昇自体が問題ではなく、そのペースが速いことが問題の本質だろう。
*1 詳細はPRESTIA Insight 2021.03.08「なぜ、米国株は金利上昇に脆弱になったのか」をご参照下さい
*2 あくまで3月12日時点のS&P500指数とEPSに基づくもので、株価が低いもしくはEPSが高いほど、株価維持が可能な増益率は低くなる。なお、別の株価指数には当てはまらず、別途計算する必要がある