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なぜ、米国株は金利上昇に脆弱になったのか

2021-03-08

■ 米国株のイールドスプレッドは、リーマンショック以降、2番目に低い水準まで縮小

■ 米長期金利はまだ上昇余地を残しており、米国株のPER低下圧力が生じやすくなっている


    最近の米長期金利の上昇は、想定以上に早いペースで進行し、早期に問題化した点を除けば、筆者が1月末以降、本稿で記してきた見解に概ね沿った動きだと整理している*1。同時に、現時点では景気の先行き期待に対する懸念はほとんど見られておらず、長期金利上昇に対する警戒は、あくまで金融市場での反応にとどまっていることも注目に値する。

    株式市場が金利上昇に対して神経質に反応するようになった背景は、株式イールドスプレッド*2が端的に示している。米国株(S&P500指数)のイールドスプレッド(約1.64%)は、直近最低水準だった2018年を下回り、リーマンショック以降では、2009-10年に次ぐ2番目に低い水準まで縮小している。2009-10年、2018年同様、主な原因は米長期金利の上昇である。2009-10年は、リーマンショック後の景気持ち直しとともに量的金融緩和の副作用による将来のインフレが警戒され、長期金利のみが上昇。2018年は、金融引き締めサイクル中期にあり、将来の利上げが織り込まれ、長期金利が上昇した。当時と現在では無リスク金利である米長期金利の水準が大きく異なり、米長期金利は2009-10年、2018年よりも1.5-2.0%程度低いにもかかわらず、イールドスプレッドはリーマンショック後の最低水準圏に達した。現状は2009-10年と類似点が多いものの、長短金利差(2-10年)は1.5%弱と、2009年以降の中心値付近に位置し、レンジ上限(2.5%超)に達していた2009-10年よりも1%以上低い。また、米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者が見通している長期的な政策金利の到達水準である2.5%とも1%弱の乖離があり、まだ金利上昇余地を大きく残していると考えられる。

   イールドスプレッドのさらなる縮小が見込みづらくなったため、米長期金利上昇により、株式益利回りの上昇圧力、すなわち株価収益率(PER)の低下圧力が生じやすくなっている。企業の業績回復が続いているため、これが株価下落に直結するとは限らないものの、金利上昇に対して極めて脆弱になっており、株価の抑制要因として無視できない存在になっていることを示唆している。

*1 詳細は、PRESTIA Insight 2021.01.29「FRBは長期金利上昇を容認か」、同2021.02.12「リフレトレードに死角はないのか」、同2021.02.17「出動準備を始める債券自警団」をご参照ください

*2 株式イールドスプレッド=株式益利回り(PERの逆数)-無リスク金利(主に10年国債利回りが参照される)と表され、株式に対するリスクプレミアムを示す尺度と考えられる 

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