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パウエルFRB議長は火を消すか、それとも油を注ぐか

2021-03-03

■ 米長期金利上昇の背景には、「良い金利上昇」のみならず様々な要因が存在するとみられる

■ パウエルFRB議長が足元の金利上昇に懸念を示さなければ、再び金利急上昇の可能性も


   米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は先週の議会証言で、新型コロナウイルスワクチンの接種進展や追加経済対策の早期成立による今年後半の景気回復加速や、(昨年の急低下に伴う)ベース効果による向こう数カ月のインフレ高進、などの可能性に言及。ただ、そのうえで、「景気回復はまばらで完全には程遠い」「物価上昇は長続きしない」との見方を強調し、現行の金融緩和策を長期に維持する姿勢を示した。しかしながら、その後米10年国債利回りは約1年ぶりに一時1.6%台まで急伸し、米長期金利の先高観は依然として根強い。

   その背景として、パウエルFRB議長をはじめとする複数の当局者が、足元の米金利上昇は「経済正常化見通しを反映したもの」、つまり「良い金利上昇」と認識しているとみられ、静観する姿勢を示したことが挙げられよう。しかし、要因はそれだけではない。バイデン米政権は、議会上院で審議中の追加新型コロナ対策法案に加え、具体的な内容は不明だが、さらに相当規模の経済政策を打ち出す準備をしていると一部メディアで報じられており、国債増発に伴う需給悪化懸念を背景とした「悪い金利上昇」の側面も否定できない。また、FRBは昨年8月に金融政策の新たな指針を示し、一時的には2%超のインフレを容認する平均物価目標を導入した。米経済の正常化が順調に進むなか、FRBが金融緩和姿勢を堅持すれば、想定を超えてインフレが高進することを市場は懸念し始めているとも考えられる。

   先週末から今週にかけて、米長期金利には上昇一服感が広がりつつある。しかし、上述したような様々な背景があることを踏まえれば、米当局者が金融緩和策の継続を強調したところで先高観は拭えない。昨日、ブレイナードFRB理事は、「市場動向に非常に注意を払っている」として、最近の債券市場の不安定な動きをけん制する姿勢をみせたが、こうした直接的な指摘が続かなければ再び米長期金利が急伸する可能性があろう。したがって、4日に予定されているパウエルFRB議長の講演は重要で、従前通り足元の金利上昇に懸念を示さなければ、それは火消しどころか火に油を注ぐことになるのではないだろうか。
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