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2021年3月第1週(1~5日の相場展望)

2021-03-01

コロナ禍の中からの復興に向けて、世界的にワクチン接種が徐々に進んでおり、また米国の大型経済対策が予定されていることで、先行きの経済活動に明るさが見えつつある。それらを背景にして米国金利の上昇が急ピッチとなった。以前からテーパリングタントラムと言われる、中銀の金利正常化に向けての動きから相場が攪乱されることを意味した言葉をよく見られたが、先週はこの言葉を思い出すような相場の動きが目立った。ほとんどの金融相場は、直近では米国長期金利の動きに大きく影響されている中、木曜日に起こった米国長期金利の急上昇は対ドル相場のみならず、株価、又は金、ビットコインに至っても急落という動意をみることになった。一言で言えば、世界的な低金利を背景にした金融相場が続いているということ。

火、水曜日に開催された米国議会証言では、パウエルFRB総裁は以前からの確認をするかのように雇用環境を非常に懸念している発言が多く今後の焦点となると感じられた。また目標のインフレ率2%達成に3年以上かかる可能性があるという発言で、前日大きく売られていたダウ平均は上昇に転じて日中に最高値を更新することとなった。その翌日の木曜日に発表された週間新規失業保険申請件数は、予想の83万8000件(前週は84万1000件)に対して、73万件と予想を大きく下回り、雇用環境の好転を感じさせる数値となった。これを受けて米国長期金利が急上昇し、1.3%付近から1.6%まで上昇し、ドル安がドル高に転じ、株価も急落、金やビットコインも売られる展開となった。先週のレポートでは米国の物価指数についての考察をしたが、そのインフレ懸念も市場の思惑に入っていそうだ。

株価の波乱を受けてクロス円も同様に高値波乱となりそうだが、短期的にチャート形状から上昇基調が強まっているドル円の上げがクロス円の下落幅を限定的にしている。ドル円は上下のバンド幅を保ったままで上昇を継続させており、理想的な上昇波動が見られる。上昇チャネルのバンド内で上げ下げしながら下値を切り上げ、上値を更新する動きだからだ。 チャネルの下限を下回ると下落基調が強まる可能性はありが、今のところ上昇継続の可能性が高い。バンドの上限である、106.70-80付近は重くなろう。そのレベルである上限付近を上に抜けると、110.68から今年1月につけた安値102.57の昨年3月につけた半値戻しの107.10が次のターゲット。そのレベルをしっかり抜けると、長期下落トレンドラインが108前後に下がってきているレベルと61.8%戻しレベルの108.20にレジスタンスがあり、売り物も多く出てくる可能性があるので強い抵抗レベルである。株価の視点からは、高値米国の金利が上昇すると軟調になりやすい展開は続きそう。しかし日本は物価の上昇などほど遠い指標ばかりで、デフレに戻ってしまうリスクが残っている。株の上昇で資産効果が出はじめたところに新型コロナがそれを止めた形となり、物の値段は日本では上がる気配がない。半導体や金属など、国内要因によるものではなく世界的に不足している物の値段は上昇しているが、その他の国内最終消費財の物価は上昇していない。実際の物価の動きが米国と日本では以前のように乖離してくると、金利の乖離も同様に大きくなる可能性がある。そうなるとドル高円安の影響が他の通貨の下落も飲み込んでしまう、つまりクロス円の下落は限定的かと思われる。リスクオンを背景に上昇はしていたが、円安要因がそれを限定的にするという考えである。短期的にはリスクの指標である株価に振られそうだが、全体的にはドル上昇の中でもやや円安傾向がみられることで、リスクとクロス円の連動率が下がるのか注目したい。

ドル円の日足チャート


欧州の長期金利は、米国長期金利の上昇に波及し、ドイツの10年債利回りはマイナスながらも昨年3月以来の高水準となった。ECBのラガルド総裁は利回り上昇に対して「緊密に注視」していると発言するなど警戒を強めており、毎週行われる債券買い入れ増額で対応するとしている。それに対して米国FRBのメンバーからは、長期金利上昇に関してのコメントは未だ出ておらず、市場は黙認するのか?と疑心暗鬼になっていることでドル買いが大きく膨らんでいる。金曜日は、米国個人消費の伸びが予想通りの結果とは言え好調だったということで、ドル買いの理由づけにされているだけと見て取れる。センチメントはドル買いへ傾斜している証拠である。テクニカルからのユーロドルからは、短期上昇ウェッジ型の上限まで達していたことで売りが多く出て下落してもおかしくはないタイミングでの米国個人消費の発表があったことも一理あるだろう。短期的な視点からは、1.2040付近に一目均衡表の雲の下限があり抵抗があり、1.2100付近が重く上値を徐々に切り下げる展開が優勢か。欧州ECBのメンバーから金利警戒の言及がある度に下値追いする可能性がありそうだ。昨年5月ごろからの上昇トレンドラインを上回っている限り、中長期的なユーロの上昇基調は続くだろうが、下回ると下落加速の可能性もあり警戒が必要だろう。

ユーロドル日足チャート


今週は、先週の米国金利上昇の引き金となった新規失業保険申請件数と同様に、今週金曜日の米国雇用統計には市場の注目が集まってくるだろう。そのイベントに向けてのポジション取りが行われる可能性があり、ドルが上昇して買いポジションを増やしていく場合は、予想通りの結果で利食いの下落、予想を上回ると意外高の可能性も考えられ注目のイベントとなるだろう。先週、ドルが米国の経済統計を理由づけにして上昇したため、今週も米国の経済統計発表前後には動意が見られるだろう。欧州とドイツの消費者物価指数、米国ISM製造業景況指数、オーストラリアの政策金利発表などが予定されている。木曜日のパウエルFRB総裁の発言や米国地区連銀経済報告(ベージュブック)は注目が大きく、今週最大のイベントが金曜日の米国雇用統計として控える。予想を上回る雇用統計となれば、米国長期金利上昇からドル買い加速、株価や金相場の下値トライという可能性が大きいだろう。
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