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出動準備を始める債券自警団

2021-02-18

■ 米国では期待インフレ率が全期間2%を上回り、特に今後1年間は平均3%超へ急伸する見込み

■ 市場のインフレ耐性や、明確な定義を避けてきたFRBの平均物価目標が早晩問われそうだ

   2月12日の本稿で取り上げた米長期金利や期待インフレ率の上昇に拍車が掛かっている*1。市場の期待インフレ率を反映する物価連動国債のブレークイーブン?インフレ率(BEI)は、全年限で軒並み米連邦準備理事会(FRB)の平均物価目標である2%を上回っている。特に期間1年のBEI(3.84%台後半)が突出する歪な期間構造となっており、今後1年間のインフレが平均3%超まで急伸することが示唆されている。この傾向は、米ミシガン大学消費者信頼感指数で示される先行き1年、5年の期待インフレ率でも観測される。最新2月のデータでは、先行き1年、5年の期待インフレ率はそれぞれ3.3%、2.7%で先行き1年が5年を上回っている。
   これらの現象は前年3月より全米各地で実施された都市封鎖により、同年3月から5月にかけて物価下落圧力が強まったことに起因する。数値上、3月以降の1年間(特に前年の落ち込みが大きい2021年前半)は、前年比ベースでインフレ率は急上昇するとみられる。翌年にはこの影響は剥落するため、期間2年のBEI(2.64%台前半)は大きく水準を切り下げている。あくまで一過性のインフレ急伸と評価されているものの、結果が明らかになる4月頃には、金融市場ではインフレへの耐性が問われる局面を迎えよう。
   パウエルFRB議長は、1月26、27日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見でこの点に言及しており、一時的な現象への対応を見送る考えを示している。物価が低位安定しているため、現在はこのような姿勢が信認されている模様だが、3%を上回るインフレが進行するなかでも引き続き信認が得られる保証はない。インフレに敏感な債券市場(債券自警団)の反応とFRBの対応が焦点となりそうだ。BEIは期間1年以降も2%を明確に上回っており、明確な定義が避けられてきたFRBの平均物価目標の考え方が問われるのは不可避だろう。直ちに金融引き締めに向かう可能性は低いものの、物価安定を犠牲にして緩和的な金融政策を継続するのか、債券市場で決まるターム物金利上昇を容認してインフレ懸念の抑制を明確にするのか、FRBは経済と金融市場との間のトレードオフに直面すると考えられる。すでにほぼ全期間のBEIが過去最高水準に達しているため、時間的猶予は思いの外、短いかもしれない。

*1 PRESTIA Insight 2021.02.12「リフレトレードに死角はないのか」
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