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FRBは長期金利上昇を容認か

2021-02-01

■ 年明け以降、米長期金利は1%台で定着しつつあるが、実質金利はほとんど上昇していない

■ 実体経済への影響が大きい実質金利が安定している限り、FRBは長期金利上昇を容認か


    米国では昨年8月以降、緩やかな金利上昇が続いてきたが、年明け以降、米10年国債利回りは節目の1.0%を上回り、1%台が定着しつつある。足元の金利上昇は、期待インフレ率の上昇を伴っている点が特徴の一つである。米国では10年物価連動国債のブレークイーブン?インフレ率(BEI)が1月以降、2%台で推移している。2%を継続的に上回るのは2018年以来の現象で、投資家のインフレ期待が高まっていることがうかがえる。ただ、金利水準、金融政策の方向性など、2018年とは状況が異なっている。現在の米10年国債利回りの水準(1%台前半)は、2018年(2%台後半から3%台前半)と比べて2%程度低い。また、現在は、利上げ観測はほとんど浮上していない一方で、2018年は利上げサイクルの最中にあり金利先高観が強かった。期待インフレ率が2%を上回っても利上げ観測が高まらないのは、米連邦準備理事会(FRB)が2020年8月に、物価目標達成のために「しばらくの間2%を緩やかに上回る」インフレを許容すると、金融政策の枠組みを見直したことに起因する。
   年明け以降の米10年国債利回りとBEIの上昇幅はほぼ同等で、両者の差である実質金利はほとんど上昇していない。すなわち、名目金利である米10年国債利回りの上昇の大半は期待インフレ率の上昇で説明でき、低位安定を保つ実質金利との乖離が広がっていることを意味する。名目金利で交わされる金融契約と違い、実体経済における財・サービスの取引では物価変動について価格転嫁が可能なため、金利上昇の影響は実体経済と金融市場で異なる。金融市場は名目金利上昇の影響を受けるが、実体経済では実質金利の方が影響はより強い。27日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の会見で、パウエルFRB議長は長期金利の上昇や金融市場の混乱に対して特に強い懸念を示さなかった。筆者は、実質金利が安定しているため、実体経済への影響は相対的に小さいと判断していることが一因だと推測している。その他のFRB高官からも現時点で長期金利上昇に対する強い懸念は示されておらず、実質金利が低位で安定している限り、FRBは長期金利上昇を容認するのではないだろうか。
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